森武七墓碑(森武七と郡内騒動)

森武七墓碑 義民の史跡
甲斐一国を揺るがせた大一揆の頭取の墓
この記事は約4分で読めます。

天保7年(1836)、米価高騰に悩む甲斐国(今の山梨県)郡内地方の百姓らが、下和田村(今の大月市)の森武七を頭取に、米商人から押借をしようと決起しましたが、途中で無宿人が参加するなどして統制が乱れ、甲斐全土にわたる打ちこわしへと発展しました。この「郡内騒動」では牢死した武七が「存命ニ候得は於石和宿磔」の判決を受けており、地元には武七の墓などが残ります。

義民伝承の内容と背景

江戸時代の天保年間には冷害による全国的な飢饉が発生していましたが、甲斐国内では山がちで米が穫れず買米に頼っていた郡内地方の被害が深刻でした。そのような中でも都留郡谷村(今の都留市)の米穀商たちは米の買占めを行い、農民たちの怨嗟の的となっていました。

天保7年(1836)8月17日夜、谷村で近隣百姓による打ちこわしが発生し、谷村代官所により事態の収拾が図られます。これと時を同じくして、米価高騰により飢餓に苦しむ農民を救済するため、都留郡下和田村百姓・森武七(本名は治左衛門)が立ち上がりました。

森武七は70歳の高齢ながら周辺の博徒を手懐け「親方」と呼ばれる存在だったため総頭取に推され、もう一人の頭取である犬目宿(今の上野原市)の水越兵助、それに中初狩宿(今の大月市)の伝兵衛、大椚(おおくぬぎ)村(今の上野原市)の八右衛門が加わり、多数の農民の力を背景に米商人から穀借りすることを目論みました。

郡内からの一揆勢は黒野田宿(今の大月市)の医師・泰順が作成した「連判評定の事」という規律に基づきよく統制され、実際に周辺村々の名主・長百姓から年番で選ばれて代官所に在勤していた郡中惣代を窓口とした米価引下げの交渉などもしています。

しかし、一揆勢が笹谷峠を越えて国中地方に進出すると、加勢にきた初鹿野村(今の甲州市)長百姓・義右衛門の一団による駒飼宿打ちこわしをはじめ、無宿人ら多数の「悪党」の参加により暴徒化して統制を失い、米価高騰の元凶とされた熊野堂村(今の笛吹市)の米穀商・小川奥右衛門宅の打ちこわしを最後に武七や兵助は帰村してしまいます。

以後は盗んだ女帯を襷に締めて目印にした「異形の姿」の長浜村(今の南都留郡富士河口湖町)無宿・民五郎をはじめとした「悪党」が「乱妨」を指揮し、甲斐全土で打ちこわし・借金証文の焼捨て・放火や恐喝を繰り広げました。

一揆勢は甲府勤番の手勢を撃退して甲府町内を荒らし、信濃国境にまで迫ったものの、最終的に高島藩へ出兵を要請の上、神官らの加勢も得た甲府代官の手勢によって、大八田村(今の北杜市)でようやく鎮圧され、この間の打ちこわしの被害は300軒以上を数えました。

この「郡内騒動」に参加した農民や無宿人らは捕縛され、それぞれ磔・死罪・遠島・追放などの処分を受けたほか、過酷な取扱いによる牢死も多数に上りました。役人側でも甲府勤番支配・氷見伊勢守はじめ、甲府勤番士や各代官が「其砌不束之至」として御役御免や逼塞の処分を受けています。また、一揆に参加した村々には過料が課せられ、有徳人から集めた冥加金とあわせて、これらを原資とした貧農救済や向こう3年間の年貢減免も行われました。

一方、森武七は追っ手が迫ったため代官所に自首して石和牢舎に送られましたが、同年11月16日に牢死し、「存命ニ候得は於石和宿磔」の判決を受けています。兵助はその後も逃避行を続け、滞在先の農家で算盤を指南したり遍路姿で喜捨を求めて路銀を稼ぎつつ、上総国(今の千葉県)木更津での潜伏を経て、密かに犬目宿に戻り隠棲したといい、地元には兵助の逃亡日記が残されています。

「郡内騒動」は幕閣にも大きな衝撃を与え、水戸藩主の徳川斉昭が将軍・徳川家慶に提出した意見書『戊戌封事』でも「近年参州甲州の百姓一揆徒党を結ひ又ハ大坂の奸賊容易ならざる企仕猶当年も佐渡の一揆御座候ハ畢竟下〻にて上を怨み候と上を恐れざるより起り申候」と言及されています。

参考文献

『山梨県史』通史編4 近世2(山梨県編 山梨日々新聞社、2007年)
『八右衛門・兵助・伴助』(深谷克己 朝日新聞社、1978年)

森武七墓碑へのアクセス

名称

森武七墓碑

場所

山梨県大月市七保町下和田531番地

備考

中央自動車道「大月インターチェンジ」から車で10分。「市営グランド入口」バス停向かいの坂を「湯立人鉱泉」へ下り、中央自動車道の高架真下へ。駐車場あり。

関連する他の史跡

犬目の兵助の墓
犬目の兵助の生家
大八田供養碑

参考文献のうちリンクを掲げたものについては、通常、リンク先Amazonページ下部に書誌情報(ISBN・著者・発行年・出版社など)が記載されています。リンクなしは稀覯本や私家本ですが、国立国会図書館で閲覧できる場合があります。>[参考文献が見つからない場合には]