一木神社(一木権兵衛と室津港改修)

一木神社 先賢・循吏の史跡
室津港開削のため海神の人柱となった普請奉行を祀る
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土佐国土佐郡布師田ぬのしだ村(今の高知県高知市)の一木権兵衛は、土佐藩の野中兼山に認められて普請奉行となり、室津港の改修を指揮しました。工事の支障となる港口の岩礁に悩まされた権兵衛は、海神にいけにえとして命を捧げると誓って工事を成功させ、その後約束どおり延宝7年(1679)に切腹したと伝えられています。一木権兵衛は「一木神社」に神として祀られたほか、境内や故郷の布師田には墓石が残ります。

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伝承の内容と背景

地元の用水路に「権兵衛井流ゆる」とよばれる巧みな水門をつくった土佐国土佐郡布師田村の一木権兵衛は、この地を通りかかった野中兼山の目に留まり、土佐藩の郷士に取り立てらました。この権兵衛は、戦国大名・長宗我部氏が土佐を支配していた時代、平時は農耕に勤しみ、戦時には具足を携え戦場に駆け付けた在郷の家臣である「一領具足」の子孫に当たります。

やがて土佐藩家老として精力的に藩政改革を行う野中兼山のもとで、一木権兵衛は寛文元年(1661)に普請奉行に登用され、津呂港や室津港(今の室戸市)の工事に力を発揮しました。

寛文3年(1663)、郷士を重用して上級藩士らの反感を買った野中兼山は、家老を罷免させられてその年のうちに急死し、家族は幡多郡宿毛村(今の宿毛市)で40年にわたって幽閉されるなど、悲惨な末路を遂げました。

一方で一木権兵衛は継続して普請奉行の役目にあり、延宝年間に再び室津港の改修に携わりますが、港内を掘り下げていたところ、斧岩・鮫岩・鬼牙おにが岩とよばれる3つの岩に阻まれ、人夫を増員するものの、どうしても工事を完成させることができませんでした。

そこで一木権兵衛は、藩主の恩に報いるために人柱になって工事を成就させることを決意し、「吾不肖なからも此役功成ニ至候は終身之処君ニ奉ル命則天に捧」と海神に誓ったところ、翌日にようやく岩が砕けて粉々になり、穿った穴から吹き出た血しぶきのようなもので一帯が赤く染まったといいます。

延宝7年(1679)6月、室津港の工事完成を藩府に報告するため高知城下に向かった一木権兵衛は、途中で体がしびれて動けなくなり、室津に戻るとたちまち体調が回復する体験をして、いよいよ時期が到来したことを悟りました。津照寺の住職に宛てて「神明𛀁捧命申所の誓言、則、御見分之通遂本意候事」と一筆記し置いた権兵衛は、同16日夜、港の上に祭壇を組み、海神への捧げ物として太刀や甲冑を海に沈めると、翌17日の早朝に自刃して果てました。

以上の人柱伝説は土佐藩士・山田長則が著した『室津港忠誠伝』によるものですが、一木権兵衛の死を悼んだ人々は、津照寺に「覚岩院常誉信士霊位」と刻む墓塔を建て、その後安政4年(1857)に「霊位」を「神儀」と改めて再建、さらに明治4年(1871)には墓塔を土中に埋め「一木神社」として権兵衛を神に祀りました。現在の社殿は昭和4年(1929)に再建されたもので、同時に田中光顕伯爵題筆の「一木権兵衛君遺烈碑」がつくられたほか、墓塔も掘り出されて境内入口にあります。ほかに故郷である布師田にも一木権兵衛とその妻の墓が営まれています。

参考文献

『室戸町誌』(室戸町誌編集委員会編 室戸町史跡保存会、1962年)pp.211-224
『野中兼山関係文書』(高知県文教協会編 高知県文教協会、1965年)p.30、pp.70-73
『室戸市史』上巻(室戸市史編集委員会編 室戸市、1989年)pp.274-284
『土佐国群書類従』地理96-97(吉村春峯編 写本)(国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/13394140より参照)

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一木神社の場所(地図)と交通アクセス

名称

一木神社

場所

高知県室戸市室津2643

備考

「一木神社」は、四国八十八か所霊場第25番札所に当たる「津照寺」の隣に位置しています。公共交通機関を用いる場合、土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線「奈半利駅」から高知東部交通バス(室戸世界ジオパークセンター行き)乗車40分、「室戸」バス停で下車して徒歩5分です。マイカーを用いる場合、阿南安芸自動車道(北川奈半利道路)「芝崎インターチェンジ」から30分、高知東部自動車道「芸西西インターチェンジ」から80分ほどとなります。境内から南西に3分ほど歩いた室津港の漁協建物前が津照寺の共用駐車場となっています。

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